私は天使なんかじゃない
来てしまった女
誰もが自分が一番不運だと思うだろう。
だけどそれは思い込みの場合も多い。主観として受け止めるから客観的にはどうしてもならない。
この状況下での一番の不幸は誰?
気付けば誘拐されてました(泣)。
宇宙人に『アブダクション』されちゃってたわけです。
宇宙人です、宇宙人。
……。
……ありえない展開だろーっ!
うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ世界観ぶっ飛び過ぎだろーっ!
ボルト101出てすぐに過酷な世界を味わってるミスティちゃんです。
おおぅ。
ともかく私は誘拐され宇宙船(だと思われる場所。宇宙船の規模は不明)の船室に放り込まれた。
そこで出会ったソマーという黒人女性と組んで脱走。
そして……。
「……」
「……」
白い白い宇宙船の壁。
どこもかしこも白。
ある意味で滅菌された病院のような印象を受ける。そういう意味ではボルトっ子の私には馴染みのある滅菌具合だ。
まあ、だからといって落ち着かないけど。
「……」
「……」
そこを私達は静かに歩く。気が滅入る通路を私達は緊張した顔で歩く。何故なら武器の面でエイリアンに劣っている。私達の手にしているのはショック
バトン(ソマーが命名)という近接武器のみ。おそらくスタンロッドに似たような代物だろう。テクノロジーに差はあっても厳密には同じ。
つまり暴動鎮圧用。
モルモットの脱走に対する武器なのだろう。相手を麻痺させる効果が前提であり殺傷能力は皆無に近い。
何度も私は食らっても死んでないし。
ただ、エイリアンは肉体的に脆弱と言う事が分かったのは、ラッキーだったかな。
ソマーの攻撃であっさり死んだし。
問題があるとしたら絶対的な数の差と、連中が地球のテクノロジーを凌駕している事かな。当然ビーム光線とか使うのだろう。
ビーム光線かぁ。
きっと凄いテクノロジーなんだろうなぁ。
ボルト101にはなかったけど、核で世界が吹き飛ぶ前には地球でもレーザー兵器の技術は確立されていた。
……。
……地球でも、ね。
何気に私は宇宙規模の視点で物事を考えちゃってるなぁ。まあ、だから何だって感じなんだけどさ。
ともかく地球でもレーザー兵器の技術は確立され、量産されていた。さらにレーザー兵器の上位バージョンであるプラズマ兵器も研究されていたらしい。
いずれにしてもエイリアンはそれよりも強い武器を持っていてもおかしくない。
少なくとも宇宙船持ってるわけだがら武器が木で作った弓矢って展開はないだろ。
まあ、私としてはその展開が好ましいんだけど。
さて。
「ソマー」
「しっ」
彼女は声を潜める様に私を睨む。
睨まないでー(泣)。
ボルト101では大活躍(大暴れとも言う)した私でも宇宙船では戦闘要員ではありません。非戦闘員っす。
脆弱エイリアン相手にフルボッコされたし。
脱走からここまでの間に倒したエイリアンは全てソマーの成果だ。
はいはい、仰せのままに、コマンダー。
立ち止まり潜む私達。
何かのコントロールルームなのだろう、奇妙な計器と奇妙な曲線を持つ椅子、そして奇妙な連中がそこに屯っていた。エイリアンどもだ。
数は5体。
この船内は全て『奇妙』という単語が付くのは仕方ない。
何しろ宇宙人の文明なわけだし。
目にするものは全て『奇妙』な代物なのは当然だろう。
「……どうするの?」
「……始末する」
相手はまだ気付いた様子はない。
ここにいるエイリアンどもの腰にはショックバトンがあるだけ。ビーム兵器は手にしていない。
まあ、厳密に言えばショックバトンもビーム兵器みたいなものかな。
先端には『奇妙』な光が灯ってるし。
ともかく遠距離用の武器がない以上はこのフロアの制圧は問題ないだろう。肉体的には脆弱なエイリアン、接近戦に持ち込めば特に負ける要素は
ないだろう。私は、まあ、あっさりと負けましたけどね。
だけど私が敗北したのは攻撃力がソマーよりも劣っているからではなく動きが素人だからであって純粋な戦闘能力はエイリアンよりも高いだろう。
……。
……って自己弁護してどーする。
うー。
ボルト101を出てから私は不運だなぁ。
おそらく世界で一番不幸だろう。
「行くよ、ミスティっ!」
「了解っ!」
バッ。
私達は飛び出す。
エイリアン達はそれから一呼吸後の動きも鈍いまま。反応がまるで遅い。どうやらこういう状況には慣れていないらしい。
ここにいる奴らだけ?
いや。もしかしたらこれがエイリアン全体に共通する事かもしれない。
テクノロジーに頼り切っているのだろう。
あのバリアフィールドのような牢は絶対に破られないと踏んでいたが為の油断であり、危機管理への鈍化なのだろう。
実に都合がいい。
何故なら出し抜ける可能性を秘めているからだ。
「突撃よミスティ、今度は抜かるなよっ!」
「分かってるっ!」
接近する私達。
エイリアン達はこの時、ようやく反応するもののショックバトンを抜く余裕はない。
そして……。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ビクンビクン。
私は体を痙攣させながら床に転がった……って、またかいっ!
もう嫌この展開(泣)。
エイリアンのショックバトンをまともにお腹に受けて私が引っくり返っている間にソマーは大活躍中。主人公は貴女でしたっけ?
相手の攻撃を回避、手にした武器で次々と薙ぎ倒していく。
互いに武器は接近戦用。
純粋に力の勝負では人間の方が強いらしい。エイリアンを薙ぎ倒し、叩きのめし、投げ飛ばし、さらには相手の武器を奪って二刀流で叩きのめすソマー。
……。
……大活躍中ですね。
いやぁ主人公は貴女しかいないんじゃないですかね(棒読み)。
うー、私の立場がぁ。
「相変わらず弱いね、あんた」
「悪かったわね」
「ほほう? そんな態度取るの? ……囮作戦でエイリアンの群れの中に蹴飛ばしてもいいんだよ、別に私はね。あんた足手纏いだし」
「すいませんでしたっ!」
「そうそう。誠意が必要よね、護って貰ってるんだから」
「……」
いつか殴るっ!
覚えてろよ必ず復讐は成されるんだからねーっ!
「ミスティ」
「えっ、何?」
「何でそんな怖い顔してるわけ?」
「いえ別に」
フロアを制圧。
この場にいたエイリアンはすべて排除された。持っていた武器はショックバトンだけ。使える物は他にはない。ここにあるパソコンらしき物や装置が使え
れば有利に立てるのかもしれないけどモニターに表示されている言語がまるで分からないので操作の仕様がない。
結局物理的な武器が一番頼りになる。
どこかに倉庫ないかな?
というか絶対にあるだろ。ここに誘拐した人間から押収した武器や弾薬、服、食料や水などなどがどこかにあるはず。
だって私は全裸で誘拐されたわけじゃないし。
PIPBOY3000もどっかにあるはず。
エイリアンが肉体的に脆弱と分かった以上、別に連中が保有しているであろうビーム兵器を奪取するまでもない。もちろんあればあったで問題ないけど
そもそも撃てるかどうか不明。武器の操作方法すら手探りだからだ。どこかにあるであろう押収した銃火器が欲しい。
いずれにしてもここにはないようだ。
ここは独房の管理室かな?
まあ、位置的にはそうね。脱走してからここまで一本道だった。モルモットの管理と監獄の守衛を兼ねた部屋なのかもしれない。
次の場所に繋がる通路は2つあるけど1つはビクともしない。
ロックの解除方法?
さあね。
分からない。
鍵穴すらないのだから開けようがない。奇妙な装置を弄って開かせるのであればお手上げだ。
ただもう1つは手を触れた途端に開いた。
「開いたわよ、ソマー」
「よし。行くとするわよ」
「ええ」
ショックバトンを手に私達は進む。
だけどすぐに失望感が私達を襲う。その部屋の構造は私達のいた監獄の区画と同じ。どうやらここの用途も同じらしい。監獄エリアだ。
進んだ先にはバリアフィールドで覆われた部屋がたくさんある。
監獄には用がない。
用があるのは宇宙船の深部。もちろん船そのものには用がない、脱出したいだけだ。
ただ……。
「ソマー、囚人がいたら解放しよう」
「それしかないわね」
展開を打開するには人手が欲しい。人間の方が肉体的には強くてもビーム兵器を手にしたエイリアンが大挙して撃って来たら勝てない。人数の上
では有利に立てないだろうけどそれでも人手は欲しい。人数がいれば色々と計画を分担して進められるし。
戦闘要員も必要だしね。
「ちょっとそこの人達っ! ジェネレーターを破壊して私をここから出してっ!」
「女の子?」
部屋の1つには女の子が閉じ込められていた。
年の頃は一桁?
まあ、どんなに年齢を上に見積もっても15ってことはないだろう。ブロンドの髪の女の子だ。多少は驚いたけど、別に驚く事ではないと思い直す。
宇宙人は無差別に誘拐しているのだろうから別にここに子供がいても何もおかしくない。
だけどジェネレーターってなんだろ。
それを聞き返そうとした時、突然ビービービーというブザーの音が断続的に響く。
耳障りな音。
地球内外限らずに非常事態を知らせる音は共通らしい。
私とソマーは構える。
部屋の奥には奇妙な物体があるけど出入り口はどこにもない。つまり私達が入って来たところが唯一の出入り口。
敵が来るのは特定出来ている。
ショックバトンを構えて敵を待つ私達。
「来るよ、ミスティっ!」
「ええっ!」
バタバタと足音が響いてくる。よほど大人数で攻めて来るらしい。
エイリアンが通路を曲がって私達の視界に入る。手には奇妙な形状のライフルのような長い代物、短銃のような代物を手にしている。
ビーム兵器だろう。
どうやら暴動レベルで対処せずに私達を倒すつもりらしい。
つまり。
つまり捕獲ではなく抹殺に移行したのだろう。
エイリアン達の数は10を越える。
その内の1体がライフルのような形状のビーム兵器を発射。蒼い光が放たれる。
「だからそんなの効かないって言ってるでしょうよ。無駄よ無駄。まあいいわ。お前ら殺すよ」
まともに頭にビーム兵器受けたはずなのにその色白の女性は、鎧を着た女性はスタスタとエイリアン達との間合いを詰めていく。
エイリアン達は怯えた様子で女性を迎え撃つ。
私とソマーは顔を見合わせた。
どうやら私達の始末にエイリアン達は出張って来たのではないらしく鎧の女性に追い立てられたらしい。こちらに気付いた様子はない。
まあ、実に助かる展開かな。
あの女性が誰かは知らないけどエイリアンを倒してくれるなら実に助かる。
見た感じあの人は人間だし。
……。
……中身が人類かは微妙ですけどね。
ビーム兵器を受けて大丈夫って人間としてどうよ?
エイリアン達が使ってるビーム兵器がよっぽど弱いのかあの女性が特別なのかは不明。それにしても鎧かぁ。中世の鎧っぽいからその時代に誘拐
されて冷凍保存されていたのかもしれない。それで何らかの形で解凍、脱走、大暴れな感じかなぁ。
だとすると宇宙船はその頃からいた?
人類の歴史は宇宙人に監視されているのかもしれない。
SF小説の読み過ぎ?
女性は不平を言いながらエイリアン達に迫る。
「死者の門に飛ばされた(意外な結末参照)先であるここはどこ? あんたら何? ここオブリビオンなの? あんたらデイドラ?」
『ウニャウニャ、ニャニャニャニャニャニっ!』
妙な台詞の女性に対して妙な言語を話すエイリアン。お前らは猫か。
もしかしたらエイリアンの言語、私達の耳に捉える事の出来ない音が混じっているのかもしれないけど私達には異音にしか聞こえない。
女性は手のひらをエイリアンに向けた。
そして……。
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
彼女の手から雷が放たれてエイリアン達を薙ぎ倒しさらに進む。
『うわっ!』
私とソマーは慌てて身を床に伏せて回避。私達の頭の上を雷は直進して最奥にあった奇妙な装置に直撃。そしてその装置は大爆発。
照明が消えて、それから数秒後にバリアフィールドが消失する。
あれがジェネレーター?
この近辺のエネルギー供給源だった模様。
ま、まあ、結果オーライだけど宇宙船に穴が開いてたらどーすんだ?
「ねぇ」
鎧の女が私達に近付いてくる。ソマーが構えるものの私は首を振った。
勝てるとは思えない。
「ねぇ」
「何?」
私はゆっくりと立ち上がって相手の目を見る。
この女性は何者?
中世は剣と魔法の世界だとボルト101の悪友ブッチは信じていたものの、あくまでゲームが作った虚構に過ぎない。だけど今使ったのは魔法っぽい。
もしかしたらこの人は別の宇宙人?
彼女は言葉を続ける。
「あんたらあの不細工な連中の仲間ってわけじゃなさそうね。ここは何?」
「その前に名前を名乗るのが礼儀じゃない?」
平然と言い返す私。
内心ではびびってます。だけど甘く見られると交渉は不調に終る場合もある。その逆もあるけど要はバランスだ。
少なくとも鎧の女性はエイリアンの敵だ。
敵の敵は味方とは限らないけど可能性はあるだろう。言語が同じなのだから交渉は出来る。交渉の結果は分からないけどね。ソマーは蒼褪めるものの
私は平然な顔で彼女に問い返す。一瞬間があったものの彼女は微笑した。
「悪かったわね。ジゼルのアホのお陰でこっちに飛ばされてイライラしてたの。礼儀を忘れてたわ。フィッツガルド・エメラルダよ。貴女は?」
「ミスティ」
「そう。よろしくね、ミスティ。私の呼び方はフィーで良いわ、仲良くしましょ」